「可能性」
自分に「できない!」と制限するのはやめましょう
人は普通、『これが好き!』と思いこむと、それ以外のものを拒絶するような方法で行動し始めます。反対に、本当はまったく別の原因があるのにも関わらず、たんに表面的な理由や感情的な動機などで、『これは嫌い!』と思い込んでいることがあります。これが才能の芽をつぶす間違った思い込みです。自分に制限を設けなければ、成功するチャンスが広がります。
相談に来た当時、Tさんは30歳でした。
証券会社を辞め、フードライターに転身したくて、その確信を得るために私を訪ねました。
大学では、アナウンス部に所属し、DJやラジオドラマの制作に打ち込んでいました。
学生時代に、一つのことをやり遂げる粘り強さや、対人関係を円滑に運ぶ社交性も身につけたと言います。
ちょうど就職氷河期に当たる時期に就職活動をしたTさんは、思うように内定がもらえず、縁故入社で、証券会社の営業職に就きました。
就職後は、自分を採用してくれた会社に対して応えたい意欲を持ち、どんな仕事でもそつなくこなせるという自信を持って仕事にのぞみます。
Tさんは、「最低3年は勤めよう」との意志を貫き、職場での不満にも耐えます。
けれども不景気の最中、証券会社が倒産し、社員が再就職に困っている様子を目の当たりにし、自分も、「つぶしの効かない職場にいる」と痛感し転職を決めたのです。
さて、証券会社を辞めたTさんは、フードライター志望です。
その理由は、料理が好き、高校時代に趣味で小説や同人誌を作っていて、文章を書くのが好き、ということが挙げられます。
そうはいっても、一言でフードライターといっても、仕事の内容は様々です。
料理研究家と組んで食と料理の知識を伝える仕事、料理雑誌のライター、食文化を伝える仕事……。
Tさんと私は、Tさんの興味の対象を絞り込んでいきました。
ビジュアルの美しい本が好きなTさんは、込み入った料理を作るノウハウよりも、料理本を演出することに興味があるようです。
また、旅先で熱心に探し回ってまで食べ歩きをするのはもちろん、現地の人たちと触れ合うこともTさんの愉しみのようです。
これは、自分と向き合うだけでなく、他者と関わりたいという傾向を示しています。
相談を重ねるうちに、食文化はもちろん、その礎となる、都市に息づく文化や、土地が持つ空気感にも興味があることがわかってきました。
そこで私は、一度、フードライターという言葉を脇に置いて、選択肢の可能性を広げてみてはどうかと提案しました。
好きな文章を扱い、食文化だけでない、いろいろな文化を伝える仕事。
結果的に、Tさんは放送作家をめざし、勉強を始めました。
放送作家は、Tさんがこれまでにやしなった食文化の知識と経験はもとより、やはり興味のある都市の個性についても発表する機会が広がる職業です。
最初は、フードライターという言葉だけに制限されていたTさんの可能性は、自分のワクを取り外したことで、さらに拡大したのです。
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