「本質」
自分の本音で生きましょう
社会の常識とか通念は必ずしも正しいものとは限りません。でも、自分がこれに沿っていないと不安に感じたり、人からダメ扱いされたりすることがあります。そこで、『自分がどうしたいか』以前に、『どうするのが普通か』を考えてしまいがちです。これが結局は、本質を外す原因になってしまうのです。
Sさんから、私の元に相談の手紙が届いたのは、Sさんが24歳のときでした。
地方都市在住の、銀行に勤める、お嬢さんです。
趣味は、茶道や絵画、音楽鑑賞、お菓子作り、着物。
何不自由なく育ち、地元の女子大学に進みます。
大学での先攻は、高校時代から得意だった古典でした。
卒業後は、地方銀行に難なく就職します。
一見、何の挫折もありません。
強いて挙げれば、本人が言うところの、「滑り止めの大学だった」ことくらいでしょうか。
就職活動のときに、「多くの人と同じように組織に入ることしか考えてなかった」あたりは、可もなく不可もない、平均的な日本の若者の在り方のように思えます。
ところがSさんは、就職2年目にして、現在の仕事である銀行の内勤が自分に向いてないと確信を持ちます。
気がついたら仕事に追われ、これが自分と誇れるものがなくなっていく毎日……。
数年のうちに転職しようと決めたSさんは、とりあえず、過去に習っていた着付けの勉強を再開します。
就職活動の際には、個人としての将来をあまり意識せずに進んできたSさん。
はた目には、○○さんちのSさんは立派なお嬢さんになりましたね、という状況です。
これまでずっと、手のかからない、いい子で来てしまったのでしょう。
おかしいと気づいたときに、興味のあることに挑戦してみることは、新しい自分発見の第一歩になります。
さて、着付けを習いながら転職を考えてもいたSさんでしたが、着物関係の仕事に就くことは考えられずにいました。
私から見ると、せっかく身につけた財産なのにもったいない気がします。
何か、頑なにSさんと着物を隔てる壁があるように思えました。
裕福に育ったSさんのお母様は、着物をたくさんお持ちだそうです。
家事以上に着物の手入れに熱心だったことから、Sさんはそんなお母様に多少、抵抗を感じていたと言います。
だから、着物を職にしたら、母の支配下に入るような気がして不安だったのだそうです。
約1年後、Sさんは着物の道に進むことを決心しました。
やはり、自分は日本文化が好きだということを再発見したのです。
母親の束縛を心配していたSさんでしたが、実際には、幼い頃から着物に触れていたため、いつのまにか目利きになっていた自分の幸運にも気づいたそうです。
好きなことが絞り込まれたSさんは、美しい人生という織物を織り上げていくのでしょう。
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