「役目」
自分の役割をはたしましょう
ほとんどの人は生涯で5つの役割を担うことになります。初めは"学生"という役割。つぎに仕事に就いて"社会人"になり、結婚すれば"夫か妻"になります。子供が生まれて"父か母"になり、最後は"お年寄り"の役目が控えています。ある時期に、二役三役と役割が同時進行したり、減ったり増えたりすることもあります。たとえ役割がどんな組み合わせになっても、一つひとつの役割を誠心誠意はたすのです。
Bさんは私立の4年制大学在学中に結婚しました。
相手はBさんより2歳年上で、Bさんより先に社会人として働き始めていました。
相手はデザイン関係の仕事をしています。
大学で建築の勉強をしたBさんは、建築家になるべく、建築会社に就職します。
学生としてもきちんとした成績を残し、夫婦としての役割もはたしてきました。
就職してからは、いち会社員として、新たな勉強の日々が始まります。
相手は子供を欲しがる一方で、Bさんの仕事を応援してもいました。
Bさん自身、建築家になる夢がスタートしたばかりです。
子育てはもっとあとで、と考えていました。
Bさんは、父親が外で働き、母親が専業主婦という家庭に育ちました。
結婚したら家事は妻がしなければ、という気持ちがしみ込んでいたようですが、相手は、家事はできるほうがすればいいと言ってくれていたそうです。
だから、Bさんは仕事に専念することができました。
相手も忙しい人で、仕事の上でも正念場が訪れているようでした。
Bさんは自分が疲れていても、相手の相談役になりたいと思っていましたが、そもそもBさんもほとんど家には寝に帰るだけのような生活。
だから、Bさんが就職してからの2年間は、ほとんどすれ違いの毎日です。
週末のうち1日だけでも一緒に過ごせればいいほうでした。
それでも、2人とも平日の疲れを癒したいことが先決になり、2人で出かけることはほとんどなく、カップルというよりは年老いた家族のような雰囲気だったといいます。
Bさんは、職場では求められる存在になりつつありましたが、家庭では自分が求められている実感を感じられません。
あとになってみると、相手も同じように感じていたそうです。
お互いに、力になりたいときに、相手が目の前にいないのです。
Bさんは、仕事が軌道に乗ってきたと同時に、結婚を含む人生そのものに対して、自分はこのままでいいのかと疑問を持ち始めます。
その時期はBさんにとっても仕事の正念場でした。
自分の役割の比重を少し軽くして、それを良しとすることにより、Bさんは着実に建築家としての力をつけていきました。
そう、なぜなら、建築家になることがBさんの夢だったからです。
しかし、その夢が近づくにつれ、相手との距離が開いてしまいました。
2人は…、別れることを決めます。
悲しいことですが、今のお互いにとって、相手を必要としていないことを2年間のすれ違いの日々を通して確認したからです。
Bさんは欲張な人ではありません。
一つを選ぶことで、もう一つがおろそかになるならば、潔く諦めるということを信条としている人です。
Bさんが不器用なわけではなく、今、目の前のことに打ち込みたいという情熱に満ちた人だからです。
そうは言っても、Bさんにとっても、相手にとっても、自分の身を引きはがされるように悲しい別れだったといいます。
2人は、1年の別居のあと、正式に離婚しました。
お互いに愛情がないわけではないのに、自分がしたいことを犠牲にしなければ成り立たない結婚生活。
けれど、2人とも前に進むしかありません。
そのあと数年は、2人とも仕事に没頭しました。
2人ともルックスも良く、人気のある人たちです。
まれに誰かとデートするくらいのことはあったようですが、特定の相手を作るわけではなく、ただ、仕事を一生懸命がんばりました。
あるとき、2人は仕事関係の場で再会しました。
仕事の話のあと、懐しく語り合います。
そして、かつてより成長したお互いを見いだすのです。
このあと、2人は仕事上のかけがえのないパートナーとして、数々の仕事をやり遂げることになります。
それもそのはず、別れてまで打ち込んだ仕事をたずさえての再会です。
もともと、気の合う2人でしたし、力をつけた2人でしたから、難しい仕事もきちんと成果を上げることができたのでしょう。
やがて再び、プライベートでも自分にとってやはり大切な人として、お互いを認識し合うのです。
まるでドラマのような話ですが、実際にあった知人の話です。
その時々の役割を全うした2人が、巡り合うべくして巡り合った好例といえるでしょう。
一時は疎遠になった2人ですが、自分の道を見誤ったり、自分をないがしろにしなかったことで、仕事の成功だけでなく、改めて人生の伴侶という宝をも得ることができました。
2人は近い将来、親になるという役割を真剣に考え始めています。
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