「適職」 Mさん ( 24歳 ) の場合 美術系短大を卒業して、母親が決めた百貨店の美術画廊に就職したMさん。 でも、ガラス工芸への夢を捨てきれず、母親の反対を押し切って退職。 現在は家を出て、ガラス工房でアルバイトとして働いている。 ここまでの道のりは、彼女の自立への布石でもあったのです。 ● 就職 ⇒ ガラスの絵付けをあきらめ、母親がすすめる画廊へ 父親の仕事がテーラー。 その父親の手先の器用さを受け継いだMさんは、小さいころから物を作ることや絵を描くことが大好きでした。 高校3年生の進路選択のときも、とうぜん美術系の学校へ進学したいと考えていました。 ところが、母親が大反対。 彼女は半年間、悩みに悩みました。 「そのとき父が、『お前は何が好きなんだい? 自分の好きなことをやればいい』って言ってくれたんです。この一言に励まされました。」 そして、彼女は美術系の短大の日本画コースへ進学。 彼女の卒業後の希望は、ガラスの絵付けをすること。 実際に、自分で就職活動をして大手陶器メーカーの内定を獲得しました。 でも、再び母親の猛反対にあってしまいます。 「絵付けのような仕事ではなく、視野を広げられるような一般の会社に就職しなさい。」と説得されたのです。 しまいには、勝手に百貨店の画廊に就職を決めてきてしまったのです。 しかたなく、百貨店の美術画廊に勤務することになりました。 「画廊では、週ごとにさまざまな展示会を開催するんです。その内容も日本画、洋画、ガラス工芸品など、実に多彩でした。もちろん作家とも知り合う機会が多くて、いい勉強になりました。」 ● 退職 ⇒ やっぱり、私はガラスをやりたい! 「でも1年が過ぎたころから、やめることばかり考えるようになってました。もともと私は、作家の先生と同じように、創る側の人間になりたかったんです。それなのに、人の作品を紹介しているだけ。作家と話しているうちに、だんだんと苦しくなってきました。」 こうして彼女は、3年後に退職を決意しますが、案の定、母親ははげしく反対。 けれども彼女の意思は揺らぐことなく、ずっと夢見ていたガラスの世界に入るために、家を出ることにしたのです。 ● 転職 ⇒ 親からの自立とガラス工房修行 Mさんの第一歩は、以前から目をつけていたガラス工房の見習いです。 無理やり頼み込んでのスタートでした。 この見習いの半年間は、お給料はありません。 朝9時から夕方6時まで工房で働いて、そのあとは、夜10時までは別のところでアルバイトをしたのです。 「寝る暇もないほど忙しい毎日で、ガラスをやっている充実感と嬉しさだけでがんばってました。」 けれども、ここで問題が発生。 彼女は家を出て、姉夫婦のもとに居候していたのですが、少しずつ姉との折り合いが悪くなってきたのです。 そしてついに、気まずい雰囲気に耐えられなくなって、アパートを借りて一人暮らしを始めたのです。 現在、彼女は、周囲の干渉から解放されて、大好きなガラスに集中できる毎日を送っています。 工房でも見習いから時給600円のアルバイトに昇格。 そして休日の日には、彼女の目標である“香水ビン”を作るための技術を磨いています。 「私は3人兄弟の末っ子で、いつも母に反抗する姉の姿を見ていたんです。そのせいか、自分は反対に親のいうことを聞く子になってしまったんですよ。だから、寄り道ばかりして自分のやりたいことに、なかなかたどりつけなかった。でもいまは違います。私はガラスでがんばっていくんです。」 ガラス工芸が本当に彼女の適職なのか、まだ答えは出ていない。 でも、ここに至る過程で直面した家族からの自立を通し、新しい自分に出会うことができたのです。